金融商品取引法の壁──透明性を追求した先に見えたもの

コンクリートの壁に差し込む一筋の光
目次

本稿を読み進める前に

この記事では、陸奥の開発が順調に進み、勝率100%という異常な安定性を見せていた時期に、
「実績を公開しよう」と考えた私が、公開直前に直面した“法律の壁”について綴ります。

SNSでよく見かける取引公開や売買通知──
あれらが実はどこから法的にアウトになるのか。
そして、陸奥の通知内容のどこが問題になり得たのか。

開発者としての高揚と、法律の現実。
その両方を、できるだけ正直に書きました。

この記事は、以下のような方に向けて書きました

  • 自作のトレードシステムやアルゴリズムを公開したいと考えている方
  • SNSで取引履歴や売買通知を発信している、または発信しようとしている方
  • 「投資助言業」という言葉を聞いたことはあるが、具体的に何が該当するのか分からない方
  • 陸奥(Mutsu)の開発秘話を追っていて、その裏側にある“法律の壁”に興味がある方

読者がこの記事から得られるもの

  • SNSでよく見かける“売買シグナル公開”が、どこから法的にアウトになるのか
  • 投資助言業の線引きがどれほど曖昧で、どこに落とし穴があるのか
  • 陸奥の通知内容のどこが法律に抵触し得るのか
  • 自作システムを公開する際に、最低限押さえておくべき法的ポイント
  • 今後、陸奥を合法的に公開するためにどんな工夫が必要なのか

著:くまちこ
公式:くまちこラボ(kumachiko-lab.com)
SNS(X | 旧 Twitter):@kumachiko7

本稿では、陸奥の開発がひと段落した後に訪れた、
“法律という見えない壁”との対峙について書いています。

私は当初、陸奥の実績や通知内容をXで公開し、
開発の透明性を示すつもりでした。
しかし、公開直前に行った法的確認によって、
自分がやろうとしていたこと──そしてSNSで多くの人が行っていること──
その多くが投資助言業に該当し得るという事実を知ります。

本稿は、その気づきと葛藤、そして合法的な提供方法を模索する過程を記したものです。


序章:透明性への挑戦と、思わぬ落とし穴

陸奥の開発がひと段落した頃、資産曲線において、一度もマイナスを記録していない状態でした。
もちろん、永遠に続くものではないと理解していましたし、過信するつもりもありませんでした。
それでも、この状況は、開発者として胸が熱くなる瞬間でした。

「この実績、そろそろ公開してもいいんじゃないか」

そう思うのは自然な流れでした。
実際の取引通知をXに投稿し、陸奥がどんな判断をしているのかをリアルタイムで見せる。
透明性を掲げたプロジェクトとして、これ以上の象徴はありません。

しかし、公開ボタンを押す前にふと気になりました。

「これ、法律的に問題ないよな……?」

軽い気持ちで始めた確認作業が、
後に“透明性の哲学”そのものを揺るがすことになります。


1. 決意:好成績システムの実績公開

陸奥は異常な安定性を見せていました。
この安定性は、開発者としての自信を強く後押ししました。

  • せっかく作ったのだから、誰かの役に立てたい
  • 開発の裏側を透明に見せたい
  • 実績を正しく評価してほしい

そんな思いが重なり、
「通知をリアルタイムで公開する」という構想が生まれました。

公開前の“念のため”の確認──
それがすべての始まりだったのです。


2. 違和感:法律調査の開始

最初は軽い気持ちでした。

  • 「売買シグナルを公開するのって、法律的にどうなんだろう」
  • 「みんなやってるし、大丈夫だよな」

そんな程度です。

しかし調べ始めると、
金融商品取引法の文言が妙に引っかかりました。

「これ、もしかして……?」

その違和感は、調べれば調べるほど確信に変わっていきました。


3. 盲点:SNSでよく見る“アレ”

結論から申し上げますと──
SNS でよく見る売買シグナル公開の大半は、投資助言業に該当します。

  • 無償でもアウト
  • 期間限定でもアウト
  • 文言をぼかしてもアウト
  • 「内部状態の公開」と言い換えてもアウト

つまり、
売買判断を第三者に伝える行為そのものが助言に該当するのです。

「みんなやってるから大丈夫」
そんな理屈は法律の前では通用しません。


4. 境界:陸奥の通知内容──どこが助言なのか

公開予定だった通知は、以下のようなものでした。

  • 対象通貨(ZARJPY, MXNJPY, TRYJPY, HKDJPY, EURJPY, EURUSD, EURAUD, EURCHF, EURGBP)
  • 判定(買い/売り)
  • 推奨エントリー(買い/売り)
  • 注文ロット数
  • 損切りライン
  • 利食いライン
  • 現在価格

これらはどう見ても「売買シグナル」そのものです。
法律的には完全にアウトだと言えます。

回避策も検討しました。

  • 売買方向を含めない
  • 損切り・利食いを含めない
  • タイミングをずらす
  • 事後報告に寄せる

しかし、これでは透明性が大きく損なわれます。
陸奥の思想とはかけ離れてしまうのです。

5. 模索 :法律の範囲

透明性を守りつつ、法律を守る。
この両立は想像以上に難しいものでした。

  • 透明性を保つには情報が必要
  • しかし情報を出すと助言に該当する

この矛盾は、回避策ではどうにもなりませんでした。


6. 選択:新会社の設立・制度の中で戦う「道」

法律の壁に直面したとき、
最初に浮かんだのは「制度の中で正面から戦う」という選択肢でした。

つまり──
新会社を設立し、正式に投資助言業の登録を取るという道です。
現在の会社では、助言業登録の要件を満たせない理由がいくつかありました。
財務面の問題もその一つですが、それだけではありません。

助言業を取得するには、資本金や体制整備、専任の管理者の配置など、相応の準備が必要になります。
今の事業構造のままでは、登録に必要な条件を満たすために大きな負担がかかることが分かりました。

もちろん、透明性を追求するために新会社を作るという選択肢は真剣に検討しました。
しかし、現時点でその道を選ぶことは、
陸奥の進化を遅らせる可能性が高いと判断したのです。

制度の中で戦う覚悟はあります。
だが、それは“今”ではないと考えました。

そこで私は、現行の法律の範囲内で、透明性を守る方法を確立する という方向へ舵を切ることにしました。


7. 安全:法的に問題のない通知方式

新会社設立という“正面突破”を一旦保留し、私は通知方式そのものを根本から見直すことにしました。

ポイントはただ一つです。

  • 「第三者の売買判断に影響を与えない形式にすること」

当初は、4章で示したような通知をそのまま公開するつもりでした。
しかし、あの形式には金融商品取引法上の「助言」に該当し得る項目が多く、
そのまま公開することはできませんでした。

そこで私は、通知方式そのものをゼロから見直し、投資判断に影響を与えない形へと再設計することにしました。

再設計の方針は次のとおりです。


● 売買方向を削除し、市場状態の説明に置き換える

「買い/売り」という直接的な判断は助言に該当するため、通知から完全に削除しました。

その代わりに、“上昇トレンド/下降トレンド/中立” といった、市場状態の説明にとどめることで、売買判断として解釈される余地を排除しました。


● 損切り・利食い・ロット・現在価格は完全に削除

これらは投資判断に直結するため、通知から完全に取り除きました。

代わりに、システム内部で使用している計算値を 抽象化した内部値 として扱い、値の意味が投資判断に結びつかないようにしました。


● 日足ベースで算出しているため、リアルタイム性が存在しない

陸奥の通知は、前日の「日足データ」を元に算出しています。
そのため、通知内容は市場の瞬間的な値動きとは無関係であり、リアルタイムの売買判断に利用できる性質のものではありません。

この構造そのものが、金融商品取引法上の「助言」に該当しない大きな理由の一つ となります。

通知を見て即座に売買判断を行うことはできず、あくまで「前日の市場状態をもとにした内部状態の公開」にとどまります。


● 余剰証拠金は固定値として扱い、個別の投資判断と切り離す

余剰証拠金は50万円に固定し、個々の取引状況とは無関係な内部計算値として扱うことで、助言性を排除しました。


● SNSで公開する通知の具体的な形式は記載しない

再設計した通知方式は、投資判断に利用できないよう慎重に設計しています。

しかし、その具体的な形式をブログに掲載してしまうと、4章で示した元の通知内容と読者の中で結びつき、“合わせ技で助言”と解釈される可能性が生まれてしまいます。

そのため本稿では、SNSで公開する通知の具体的な内容や形式は記載しないことにします。

ここで説明するのは、「助言性を排除するために、どのような思想で再設計したか」 という設計方針のみです。


● 再設計後の通知は「内部状態の公開」に限定した

再設計後の通知は、売買判断を含ない、純粋な内部状態の公開 として機能するようになりました。

そのため、投資判断に利用できる情報は含まれておらず、金融商品取引法上の助言には該当しません。


8. 信念:透明性を諦めない

通知の完全公開は、いまはまだ実現できません。
だが、それで終わりではありません。

むしろ、透明性を貫こうとした結果ぶつかった“法律の壁”そのものが、このプロジェクトの物語をより強くすると信じています。

制度の中で戦い、透明性を諦めないための道を選びます。

陸奥の物語は、ここからが本番です。

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