結実と未来──期待値を最大化する理が形になった日、そしてその先へ

FX自動売買基盤『The XVI Architecture』と陸奥(Mutsu)の開発秘話を象徴するコンセプトイメージ

前回:覚醒と転換──文鎮化した陸奥が再び動き出す瞬間

この記事は、シリーズ『陸奥 開発秘話』の最終回です。前回は、陸奥が再設計され、現代的な取引基盤へと進化していく“覚醒の過程”を辿りました。今回は、18年の蓄積が結実し、期待値を最大化する理が形となった現在──そしてその“先”にある戦場について語ります。

目次

1. 結実:2025年 期待値を最大化する理(ことわり)

1.1. 静寂の5年間と18年の蓄積

2020年から2025年。世の中が激変するなか、私は淡々と「陸奥」を磨き続けました。
2007年の「なでしこ」から始まった、18年分にも及ぶ膨大な相場データとナレッジ。

この重みが、システムの精度を極限まで高めていくことになります。

1.2. 驚愕の到達点

そして、2025年12月。
フォワードテストの結果を眺める私の目に飛び込んできたのは、かつての勝率80%を遥かに凌駕する、信じがたい数字でした。

ドローダウン・ゼロ。全取引において損失なし。
齢48の私がそこにはいました。

30歳の自分が見たら、狂喜乱舞したでしょう。
だが、48歳の私は、ただ静かにその数字を見つめていました。

そこには18年分のログと、捨て去った無数のコードと、諦めなかった執念が詰まっていることを知っているからです。
それにそうです。ドローダウン・ゼロ。全取引において損失なしなんて、本来はあり得ないことです。

しかし、バックテストではなく、フォワードテストで叩き出したことの意味は、とてつもなく大きいです。
2025年4月から12月まで、毎月数回ずつの取引が発生しています。しかも、過去の陸奥とは違い、複数の通貨ペアそれぞれでです。

これが、私が18年かけて辿り着いた『答え』でした。


フィリップ証券 MT5アカウント取引履歴

口座履歴(取引履歴)スクリーンショット。

1.3. 勝率の向こう側 ― システムの真価を測る 4 つの指標

ドローダウン・ゼロ。全取引において損失なしというのは確かに強烈です。
だが、投資の世界では 勝率だけではシステムの強さを語れません

むしろ、プロの世界では次の4つの指標こそが、「そのシステムが本当に生き残れるのか」を決定づけます。

  • リスクリワード比(Risk-Reward Ratio)
  • 利益率(Profit Factor / Expectancy)
  • 最大ドローダウン(Max Drawdown)
  • 連敗・連勝の傾向(Streak Analysis)

そして陸奥は、この4つの指標においても驚くべき安定性を示しました。


1.3.1. リスクリワード比 ― “勝つときの幅”と“負けるときの深さ”

一般的な EA1 は、

  • 勝率が高いほどリスクリワード比2が悪化しやすい
  • リスクリワード比が良いほど勝率が下がる

という「勝率」と「リスクリワード比」のトレードオフを抱えています。

しかし陸奥は、SL(ストップロス)3% / TP(テイクプロフィット)1%という一見アンバランスな設定を「守りのベースライン」として採用しました。
その上で、現在の運用段階ではシステムが導き出すTPよりも手前での先行利確を戦略的に実行しています。

これは「利確の確実性」を優先しつつ、どの程度の割合が最も効率的かを現場で見極める実効性の検証プロセスであり、システムが提示する出口戦略を「検証用の仮説」とし、人間が市場のボラティリティに合わせて実戦値へとフィードバックをかける「キャリブレーション・フェーズ」が機能しているということです。

「ロジックの方向性はシステムが提示し、期待値の最大化(利確の最適化)を人間が実地検証する」。
このハイブリッドなアプローチこそが、次期パラメータ設定に向けた精度の高いエッジ(優位性)を抽出する鍵となっています。


1.3.2. 利益率(Profit Factor) ― “勝率よりも重要な数字”

Profit Factor(PF)は、

PF = 総利益 ÷ 総損失

で求められます。

  • PF = 1.0 → トントン
  • PF = 1.5 → 優秀
  • PF = 2.0 → プロレベル
  • PF = 3.0 → ほぼ神域

陸奥は、
損失が発生していないため PF は理論上「∞」 という異常値を示しています。

もちろん、これは永続するものではありません。
だが、フォワードテストで PF が無限大になるという事実は、
ロジックの方向性が極めて正確であることを示しています。


1.3.3. 最大ドローダウン ― “生存率”を決める指標

最大ドローダウン(MDD)は、
資産がどれだけ落ち込んだかを示します。

多くのEAが破綻する理由は、
勝率ではなく ドローダウンの深さ にあります。

陸奥のMDDは、
フォワードテスト期間中「0%」 という異例の結果になっています。

これは、

  • 無駄なエントリーを極限まで排除
  • 逆行時の損切り幅を明確化
  • 手動利確によるリスク低減

という 3 つの要素が噛み合った結果です。


1.3.4. 連敗・連勝の傾向 ― “破綻リスク”の核心

EAが破綻する瞬間は、
連敗が続いて資金が尽きるとき です。

陸奥は、

  • 連敗ゼロ
  • 連勝継続中
  • 取引頻度は低いが精度が極めて高い

という特徴を持ちます。

これは、
「勝てるときだけ戦う」 という陸奥の設計思想が、
フォワードテストでもそのまま再現されていることを意味します。
※マンガの陸奥は、勝てるか分からないような強い相手ほど喜んで戦いますが・・・。

1.4. 「陸奥」へのソフトウェアエンジニアリング

Python化したことで得た最大の武器は、皮肉にも投資ロジックそのものではなく、再設計された汎用基盤 『The XVI Architecture(エキシヴィ・アーキテクチャ)』 そのものでした。


Mutsu / The XVI Architecture モデル設計

「戦法」「取引」「記録」が明確に分離された Mutsu / The XVI Architecture の基本構造

かつてのMQL4時代、そもそもテストコードという仕組み自体が存在しませんでした。
独自のテストフレームワークを自作することも考えましたが、そこに膨大な時間を割くのは非効率的であり、何より当時はまだ取引ロジック自体も発展途上でした。

そのため、私のテストといえば、デバッグログを仕込んでその内容を丹念に「目視」で確認する、アナログな手法に頼らざるを得なかったのです。

しかし、Pythonという標準的な開発環境に移り、設計図にあるように 「戦法」「取引」「記録」を完全に分離した ことで、状況は一変しました。私は「陸奥」に、現代のソフトウェア開発では不可欠な、厳格な単体テストと結合テストを導入することが可能になったのです。

【ロジックの正当性を証明】
「この市場状況なら、必ずこのルールで発注する」という振る舞いを、テストコードが事前に検証します。
市場が開いている間の「迷い」を、コードの段階で排除しておくのです。

【記録と再現性の担保】
設計図の通り、全ての注文や建玉の変化はSQLite3へと詳細に刻まれます。
これにより、万が一の異常時も、何が起きたのかをログとデータから即座に特定できます。

「動くはずだ」という希望を、「テストをパスした」という確信に変える。
このXVI(エキシヴィ)という揺るぎない土台こそが、私の『陸奥』から迷いを消し去り、現実の相場で一撃も外さない精密さを支えているのです。

2. 次なる戦場

この期待値を最大化する理(ことわり)は、私一人のものにしておくには、あまりに強固に育ちすぎました。
「本当に勝てるのか?」という疑念を「事実」で塗り替えるために、私は二つの挑戦を用意しました。

2.1. 翔泳社カレンダーへの寄稿

来たる2026年2月。IT技術書の老舗である翔泳社より発売される「サンプルプログラムカレンダー」に、この『Mutsu / The XVI Architecture』の設計思想を凝縮したサンプルコードを寄稿させていただくことになりました。

掲載されるのは、私が20年かけて削ぎ落とした「理」の最小単位、いわば戦法の「雛形」です。
PythonとMetaTrader 5を組み合わせた、このアーキテクチャの入り口を、ぜひその手で確かめてほしいと思います。


翔泳社「サンプルコード365+1

翔泳社「サンプルコード365+1」掲載予定の誌面。私の設計した『戦法』が、プロの手によって組版されている。

2.2. X(旧 Twitter)での「不敗」のリアルタイム証明

バックテストやフォワードテストによる取引履歴は、いくらでも偽造できると疑うのが投資家の性です。
加えて、これらはあくまでも「過去」の記録にしか過ぎません。

正直に言えば、私自身、この「ドローダウン・ゼロ。全取引において損失なし(※指定期間のフォワードテスト結果による)」という結果が永遠に続くなどとは微塵も思っていません。
相場に絶対はなく、この記録もいつかは必ず破られる日が来るでしょう。

しかし、2025年4月から12月まで、「ドローダウン・ゼロ。全取引において損失なし(※指定期間のフォワードテスト結果による)」という道を歩んできたのは紛れもない事実です。
ならば、この「理」がいつまで通用するのか、あるいはどこで限界を迎えるのか。
その過程をすべて、X(旧 Twitter)にてリアルタイムで公開することにしました。

この記事の公開から1~2週間ほど後になると思いますが、X(旧 Twitter)にて『陸奥』が叩き出すリアルタイムの判定を公開します。
1ヶ月間、包み隠さず。これが本物か、あるいはまやかしの数字か。
証明、あるいは崩壊。その瞬間を、ぜひ見届けてください。

3. エピローグ:理は静かに刻まれる

3.1. 残されたもの

30歳までに3億円を稼ぎ、リタイアする。
かつての私が描いたその青写真は今、手元にはありません。

20歳からプログラマーとしてがむしゃらにコードを書き、29歳でインフラエンジニア(SRE3)へと転向しました。
時にはマネジメントの重責を担い、時にはコンサルタントとして最適解を提示してきました。
齢48。気づけば、私は技術の表裏を歩き続けるエンジニアとしての人生を、誇りを持って歩んでいました。

若き日の自分が切望した「引退」という言葉は、今の私には少しだけ色褪せて見えます。
そして私の手の中にあるのは、20年以上の歳月をかけて、無数の失敗と挫折の果てに磨き上げた、誰にも真似できぬ『期待値を最大化するコード』です。

2025年。
VPSの中で稼働する「陸奥」は、かつてのように唸りを上げることも、数時間に及ぶバックテストでPCを熱くさせることもありません。
SREとして培った「信頼性」へのこだわりは、Pythonによる厳格なテストコードへと形を変えました。
最適化されたロジックは、ただ静かに冷徹に。マーケットの急所が露出するのを待ち続けています。

そして、その瞬間が来れば迷わず拳を振るいます。
2025年4月から12月まで、「ドローダウン・ゼロ。全取引において損失なし(※指定期間のフォワードテスト結果による)」という道を歩み続けています。

「敗北を許さぬ、理(ことわり)の完遂」

かつてマンガの中で憧れたその不撓不屈の精神を、私は今、2002年の初陣から実に23年。※2025年12月下旬執筆時点。
たゆみなく作り続け、書き換えてきたソースコード達と、それに伴う膨大な試行錯誤と設計書。
それらの戦友達とともに噛み締めています。

画面の向こうで、また一行、新しいログが刻まれました。
私のエンジニアとしての旅、それと「陸奥」の道は、これからも続いていきます。

(完)


  1. EA(Expert Advisor)
    MetaTrader(MT4/MT5)上で動作する自動売買プログラムの総称。
    FXに限らず様々な銘柄を対象に、チャート分析、売買判断、注文発注、損切り・利確までをコードで自動化できる。
    裁量トレードに比べて感情の影響を受けず、24時間同じロジックを実行できる点が最大の利点。↩︎

  2. リスクリワード比(RR 比)
    トレードにおける「リスク(損失)」と「リワード(報酬)」の比率のこと。
    リスク(Risk): 予測が外れた際に許容する最大損失幅(本稿では3%)。
    リワード(Reward): 予測が当たった際に得られる見込み報酬(本稿では1%)。
    本システムの比率は「1:3」であり、数値上は 1 回の負けを補填するために3回の勝ちが必要となる。
    一般的には不利とされる設定だが、これは「勝率の高さ」と、SRE(サイト信頼性エンジニアリング)の思想に基づき「致命傷を避け、システムの稼働を継続させること」を最優先に設計されているためである。↩︎

  3. SRE
    Site Reliability Engineeringの略。
    サービスの信頼性を高めるために、ソフトウェアエンジニアリングの手法を用いてインフラや運用を最適化する役割。↩︎

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